2023年10月4日、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、「SoftBank World 2023」で特別講演を行い、AIの急速な進化と、それが社会にもたらす影響について強い警鐘を鳴らしました。
この講演は、AIの未来と日本の競争力に関する重要な課題提起となりました。
講演の核心:「金魚」の比喩
講演の冒頭で、金魚とABCの文字が描かれたスライドを示し、「金魚にABCという単語を教えようとしても、金魚はABCが何かを理解できるでしょうか」と問いかけました。
この比喩は、人間とAIの知能の差を表現するために用いられ、講演全体を通じて重要な役割を果たしました。
AIの進化予測
AIの進化について以下のような予測を示しました。
10年以内に、AGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能)が実現し、人類の英知の総和の10倍の知能を持つようになる。
その10年後(20年後)には、ASI(Artificial Super Intelligence、人工超知能)が登場し、人類の英知の総和の1万倍の知能を持つようになる。
孫氏は、この1万倍という差を説明するために、「人間と金魚のニューロン(脳細胞)の数の差が約1万倍である」という比喩を用いました。
つまり、20年後には人間とAIの知能の差が、現在の人間と金魚の知能の差に匹敵するほど開くという予測です。
AIがもたらす社会変革
AGIの実現によって社会のあらゆる面が変革されると予測しています。
全ての産業が変わる
教育が変わる
人生観が変わる
生き方が変わる
社会のあり方が変わる
人間関係も変わる
具体的には、自動運転技術の進化による交通事故の激減、物流やカスタマーサービスの最適化、医療の高度化などが挙げられています。
日本の危機感
日本企業や個人がAIの活用に遅れをとっていることに強い危機感を示しました。
彼は以下のような点を指摘しています。
日本企業のAI活用率の低さ:ある調査によると、米国企業の51%が事業活動で何らかのAIを使用しているのに対し、日本企業ではわずか7%にとどまっている。
インターネット革命の二の舞:孫氏は、日本がインターネット革命の波に乗り遅れたように、AI革命でも同じ過ちを繰り返す可能性を懸念しています。
世界の時価総額ランキングの変化:1989年には世界の時価総額ランキングトップ10のうち8社が日本企業だったが、2023年9月末には日本企業が1社もランクインしていない。代わりに、アップルやマイクロソフトなどのIT企業が上位を占めている。
AIへの積極的な取り組みの呼びかけ
日本企業や個人に対して以下のような行動を強く促しています。
ChatGPTなどの最新AIツールの積極的な活用
AI技術への投資と人材育成
AI活用による業務効率化と革新
AIリテラシーの向上
孫氏は「活用するのか、取り残される金魚になりたいのか。日本よ目覚めよ」と熱く語り、AIの重要性と早急な対応の必要性を強調しました。
AIのリスクと規制
AIの持つ潜在的なリスクも認識しており、「あまりにもパワフルで、規制はすべき」と述べています。
しかし、リスクを過度に問題視する考えについては、「自動車は事故を起こすから危険だというのと同じだ」と反論し、AIの利点を活かすことの重要性を強調しました。
ソフトバンクグループの取り組み
ソフトバンクグループが「世界で最もAIを活用するグループになる」という目標を掲げ、以下のような取り組みを行っていることを明かしました。
グループ企業内での生成AI活用法の日々の考案
AI関連の特許出願
巨大な顧客データを活用したAI開発
また、ソフトバンクの宮川潤一社長も、AIによる社会変革を「第4次産業革命」と表現し、AIの開発と普及に必要な計算基盤とエネルギーの確保の重要性を強調しました。
講演の影響と反響
この講演は、多くのメディアで取り上げられ、AI時代における日本の競争力について広く議論を呼びました。この発言は、以下のような反応を引き起こしました。
AI技術への注目度の上昇
企業のAI戦略の見直し
教育機関でのAI関連カリキュラムの強化
政府のAI政策への影響
一方で、孫氏の予測や比喩に対して批判的な意見も存在します。
AIの進化速度の予測が過度に楽観的である
人間の知能を単純に数値化することへの疑問
「金魚」という比喩が過度に単純化されている
筆者の感想
孫正義氏の講演は、AIの急速な進化とそれがもたらす社会変革の可能性について、非常に印象的かつ刺激的な内容でした。
「金魚」の比喩は、確かに単純化されすぎている面はありますが、一般の人々にAIの潜在的な影響力を理解させるには効果的だったと思います。
孫氏の予測は楽観的すぎるという批判もありますが、技術の進歩は時に私たちの予想を遥かに超えるスピードで起こることがあることも事実です。
そのため、彼の警告を真摯に受け止め、AIの可能性と課題について真剣に考える必要があると感じます。
特に日本の競争力に関する指摘は重要で、自身も身の引き締まる思いがしました。
インターネット革命で遅れをとった経験を教訓に、AI革命では先手を打つことが求められすが、一方、AIの導入を急ぐあまり、倫理的な問題や社会的な影響を軽視してはいけません。改めて、AIと人間の関係について考えさせられますね。
AIを恐れるのではなく、人間の創造性や感性と組み合わせることで、より豊かな社会を作り出せる可能性を大いに秘めており、AIの進化に伴い、私たち人間も進化し、新たな可能性を見出していく必要があるのではないでしょうか。
参考元
記事まとめ
スノーリーズ株式会社 菊地 智仁
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